この路線の女王を決めるG1ジュヴェナイルフィリーズ(11月6日、サンタアニタ)を制したのが、ダーレーが供用する期待の若手種牡馬オフリーワイルド産駒のシービーワイルド(牝2歳)だ。 5月30日にアーリントンのメイドン(AW4.5f)で初出走という早期のデビューを果たし、ここを7馬身1/4馬身差で快勝して初勝利。一息入れて、8月8日に同じアーリントンで行なわれた特別(AW7f)に出て、ここも5馬身1/4差で連勝。いよいよこれは本物だということになり、次走はG3のアーリントンワシントンラッシーS(AW8f)に出走し、なんとここも5馬身3/4差で勝利を収めて、デビューから負け知らずの3連勝で重賞初制覇を果たした。 続いて、10月9日にケンタッキー州のキーンランドで行なわれたG1アルシバイアデスS(AW8.5f)に出走したシービーワイルド。単勝2.2倍の1番人気に推された彼女は、ここも直線で1度は先頭に立ったが、カナダから転戦してきたネグリジェ(牝2歳、父ノーザンアフリート)に差され、生涯初の敗戦を喫した。管理調教師ウェイン・カタラーノによると、初めての競馬場や初めての距離への戸惑いがあったそうで、決してこの馬への期待が萎む敗戦ではなく、次走はBCジュヴェナイルフィリーズに駒を進めることになった。 シービーワイルドは、マイクとナンシーのマンゾーニ夫妻の生産馬だ。馬が大好きで、競技馬術にも出場する妻ナンシーのために、夫マイクがレキシントンに25エーカーほどの牧場を購入したのが、03年のことだった。03年のノヴェンバーセールで購入した3頭の繁殖牝馬のうちの1頭が、当時は空胎だったトラッピング(父シーキングザゴールド)で、06年の春にトラッピングにオフリーワイルドを配合し、翌春に生まれたのがシービーワイルドである。 夫妻は、トラッピングの07を売却することにし、09年春に行なわれたOBSエイプリル2歳トレーニングセールに上場した。値段に関わらず売るつもりで、ほとんど無いに等しいリザーブを設定したのだが、セールではひと声もかからずに、トラッピングの07は主取りに。致し方なく自分で使うことにし、シービーワイルドの馬名を冠した馬が、なんとブリーダーズCに優勝してしまったのだから、競馬はわからないものである。 シービーワイルドは、父オフリーワイルドの初年度の1頭である。2歳時から勝ち星を挙げ、3歳春にはランフォーローゼズの路線に乗ってケンタッキーダービー出走まで果たしたオフリーワイルドだが、最も輝いたのは5歳時で、この年ニューヨークのサバーバンHを制してG1制覇を果たしている。配合表にノーザンダンサーもミスタープロスペクターもなく、一方で、活躍種牡馬ダイナフォーマーを近親に持つオフリーワイルドは、派手さには欠けるものの、種牡馬として成功する下地を充分に備えた馬と言えそうだ。 シービーワイルドが制したBCジュヴェナイルフィリーズで、1番人気に推されていたのが、ブラインドラック(牝2歳、父ポラーズヴィジョン)である。 シービーワイルド同様、ブラインドラックも市場における評価は低かった馬で、1歳の7月にファシグティプトン・ジュライで購買された時の価格が1万1,000ドル。更にこの時購買した牧場が、翌年のOBSエイプリルセールで転売しようとしたら、主取りに終わったという経歴を持っている。 そんな馬が、10月4日にサンタアニタで行なわれた、BCジュヴェナイルフィリーズへ向けた最重要プレップレース、G1オークリーフSに勝ったのである。BCこそ1番人気を裏切り3着に終わったものの、ブラインドラックは12月20日に行われたハリウッドスターレットSを制して2度目のG1制覇を果たしているから、この世代におけるシービーワイルドに次ぐナンバー2の座は、しっかり固めたと言って良さそうだ。 ブラインドラックも、父ポラーズヴィジョンの初年度産駒の1頭。シービーワイルドがオールウェザーでしか競馬をしていないのに対し、ブラインドラックはデビュー戦でコールダーのダートを走って勝っている点が、ケンタッキーオークス戦線においてはアドヴァンテージになるかもしれない。 ブリーダーズC後、中部地区で急浮上したのが、11月28日にチャーチルダウンズで行なわれたG2ゴールデンロッドSで、1番人気に応えて快勝したサッシーイメージ(牝2歳、父ブロークンヴァウ)である。この馬もまた、08年のキーンランド・セプテンバーにおいて4万2,000ドルという廉価で購買されていた馬だから、09年の北米2歳牝馬戦線は悉く市場の評価を裏切る結果となっているわけだ。 中部地区のトップトレーナー、デイル・ローマンズが管理し、その兄ジェリー・ローマンズが所有するサッシーイメージ。前走のG3ポカホンタスSに続き、チャーチルダウンズの重賞を連勝し、この競馬場との抜群の相性を示すことが出来たのは、ケンタッキーオークスを念頭においた場合、おおいに強調できる材料であろう。しかも、昨年のゴールデンロッドS勝ち馬が、今年のケンタッキーオークスを20馬身1/4差で圧勝したレイチェルアレクサンドラとあれば、サッシーイメージにも大きな期待がかかって当然と言えよう。 合田直弘