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北米2歳戦線 ~牡馬編~

 前回、前々回と欧州2歳戦線の主役たちをご紹介した。となると、北米の2歳もご紹介しないわけにはいかない。

 今回は、その牡馬編。  ケンタキーダービーの優勝馬には薔薇の肩掛けが贈られることから、「ラン・フォー・ローゼス」と呼ばれる戦線で、目下先頭を走っているのが、11月7日にサンタアニタで行なわれたG1ブリーダーズCジュヴェナイルを制した、ゴドルフィンのヴェイルオブヨーク(牡2歳、父インヴィンシブルスピリット)だ。今年4月にニューマーケットで行なわれたタタソールズ・クレイヴン・ブリーズアップセールに上場され、6万5000ギニーで主取りになった後に、ゴドルフィン入りした馬である。  7月にヨークのメイドンでデビュー勝ちを飾り、続くG3エイコムSでは5着に敗れたものの、次走グッドウッドの準重賞スターダムSを快勝。翌年のダービーへ向けた登竜門の1つとされるアスコットの8fのG2ロイヤルロッジSが3着、イタリアのサンシロに遠征したG1伊グランクリテリウム2着と、トップレベルでの惜敗が続いた後、アメリカの2歳王者を決めるBCジュヴェナイルに駒を進め、ここで重賞初制覇を果たすことになった。  つまりは、初めて走るオールウェザートラックで、いきなりの爆走を見せたわけで、しかも、ここまで無敗の4連勝で1番人気に支持されていたルッキンアットラッキーを退けての勝利だけに価値がある。なおかつ、直線で一旦前を塞がれ、外に持ち出して伸びて来るという競馬っぷりは、見た目以上の能力を感じさせるものであった。  冬はドバイで過ごし、春に再渡米をしてケンタッキーダービーを狙うことになっているが、ドバイ調教馬でケンタッキーダービーを勝つというモハメド殿下の夢がかなうかどうか、おおいに注目されるところだ。  父インヴィンシブルスピリットは、ヘイドックのG1スプリントCを勝っている快速馬で、今年も産駒からニューマーケットのG1ジュライCを勝ったフリーティングスピリットが出ているが、一方で、仏ダービー馬レイマンなども出ており、距離への融通性はある種牡馬である。ましてやヴェイルオブヨークは母の父が、今季G1パリ大賞勝ち馬カヴァルリーマンを出したダーレー供用種牡馬ホーリングで、祖母の父がサドラーズウェルズだから、距離延長に対する懸念はないはずだ。  BCジュヴェナイルでは、大外枠が響き、頭差の2着に敗れたルッキンアットラッキー(牡2歳、父スマートストライク)も、まだ見限ることは出来まい。こちらは、キーンランド・エイプリルで47万5000ドルした高馬で、自在の競馬が出来るのが強みだ。ダービー3勝のボブ・バファートが、オールウェザーしか走ったことのないこの馬を、ケンタッキーダービーへ向けてどう仕上げてくるか。けだし見ものである。  西海岸にはルッキンアットラッキーという軸となる馬がいるのに対し、混沌としているのが東海岸の2歳戦線だ。9月7日にサラトガで行なわれたG1ホープフルSを制したダブリン(牡2歳、父アフリートアレックス)が、続く10月10日にベルモントパークで行なわれたG1シャンパンSで5着に敗退。シャンパンSを制したホームボーイクリス(セン2歳、父ローマンルーラー)が、11月28日にアケダクトで行なわれたG2レムゼンSでやはり5着に敗退と、軸になる馬が定まらなかったのだ。  そんな中、G2レムゼンSを制したバディーズセイント(牡2歳、父セイントリアム)は、まだ底を見せていないという点で期待度の高い馬である。9月26日にベルモントのメイドンでデビューし、先頭でゴールを駆け抜けながら、お行儀の悪い競馬で2着に降着。このレースぶりに素質を感じ取った陣営は、次走いきなりアケダクトのG2ナシュアSにぶつけ、ここをなんと12馬身差で制して初勝利。デビュー3戦目がレムゼンSで、ここも4馬身3/4差で快勝と、実質的には負け知らずでここまで来ているのである。  母チュージアはG1パーソナルエンサインS2着の実績がある馬なのだが、08年のキーンランド・セプテンバーに上場された時にはブック3に編纂され、10万ドルというお手頃価格で購買されているから、当時は馬そのものが大した出来ではなかったのかもしれない。  まだ本当に強い相手とは戦っておらず、真価が問われるのはこれからであろう。  中部地区の代表格と目されているのが、11月28日にケンタッキーダービーの舞台でもあるチャーチルダウンズで行なわれたG2ケンタッキージョッキークラブSを5馬身差で制した、スーパーセイヴァー(牡2歳、父マリアズモン)だ。  9月11日、デビュー2戦目となったベルモントパークのメイドンを7馬身差で制して初勝利を挙げた後、強気にぶつけたG1シャンパンSではハイペースで逃げて潰れ4着。デビュー4戦目の競馬となったのが、G2ケンタッキージョッキークラブSだった。ここでも逃げて、オープニングクオーターが23秒33、半マイル通過46秒75という速いラップを刻んだスーパーセイヴァーだったが、ここではゴールまで脚色衰えず、ワンサイドの逃げ切り勝ちで重賞初制覇を果たした。  ウィンスター・ファームの自家生産馬で、近親にケンタッキーダービー2着馬ブルーグラスキャットがいる本馬。東海岸のトップトレーナーで、エクリプス賞を4度も授賞しながら、ケンタッキーダービーには縁のないトッド・プレッチャーが、この馬をどのように仕上げていくのかも、おおいに興味の湧くところである。 合田直弘


欧州2歳戦線 ~牝馬編~

 前回は牡馬編をお届けした欧州2歳戦の回顧。今回はその牝馬編をお届けしたい。

 英1000ギニーへ向けた前売りオッズで、ブックメーカー各社が4倍から6倍のオッズで1番人気に推しているのが、スペシャルデューティー(牝2歳、父ヘネシー)だ。カリッド・アブドゥーラ殿下のジャドモンドファームによる自家生産馬で、おばにアメリカで6つのG1を制したサイトシーク、同じくおばにアメリカでG1・2勝のテイツクリークがいるという牝系だ。管理するのはフランスのクリケット・ヘッド・マーレクで、10月2日にニューマ-ケットで行われた6fのG1チーヴァリーパークSを快勝している。  そのチーヴァリーパークSで本命に推されていたのが、レディーオブザデザート(牝2歳、父ラーイ)だ。01年のチーヴァリーパークSを含めて5戦5勝の成績で引退したクイーンズロジックの4番仔で、クイーンズロジックの弟に凱旋門賞などG1・6勝のディラントーマスがいるという、大変な良血馬である。キングジョージの日にアスコットで行われたG3プリンセスマーガレットSで重賞初制覇を果たし、続くヨークのG2ロウザーSも3馬身差で快勝し、チーヴァリーパークSでは2.375倍の1番人気に支持されていた。管理するブライアン・ミーハン師によると、ニューマーケット特有のアンジュレーションに戸惑ったそうで、ここは3着に敗れたが、素質のある馬であることは間違いない。来年春は、コース適性を鑑みて、アンジュレーションの少ないフランスの1000ギニーに向かうことが検討されているようだ。  チーヴァリーパークSにおける敗退組では、サンドヴィクセン(牝2歳、父ドバウィ)も見限れない存在である。今年4月のタタソールズ・ブリーズアップセールにて13万ギニーで購買されて、ゴドルフィン所属となった同馬。9月11日にドンカスターで行われたG2フライングチルダーズSを快勝し、チーヴァリーパークSでは3番人気に支持されていた。父ドバウィはこの世代が初年度産駒となるが、既に25頭が勝ち馬となって31勝をマークし、フレッシュマンサイアーランキングの勝ち鞍部門を独走中だ。チーヴァリーパークSでは、レディーオブデザート同様に初めてだったニューマーケットの馬場に戸惑ったのか敗退したが、あるいは短距離路線に向かう可能性がある来季のこの馬も、目が離せない存在と言えよう。  それにしてもタタソールズ・ブリーズアップセールは、この馬以外にも、BCジュヴェナイルを制したヴェイルオブヨーク(牡2歳、父インヴィンシブルスピリット)や、11月14日にフランスで行われたG1クリテリウムドサンクルーに勝ち、来年のダービーの有力候補に躍り出たパッションフォーゴールド(牡2歳、父メダグリアドロー)など、今年の出身馬からも続々と大物が出現。ますます見逃せない市場になりつつあるようだ。  9月26日にアスコットで行われた、「オークスへの登竜門」と言われる8fのG1フィリーズマイルを制したのが、ヒバーイェブ(牝2歳、父シングスピール)である。8月にデビューし、メイドンを2戦していずれも惜敗に終わったものの、管理するクライヴ・ブリテン師が素質を高く評価し、次走はドンカスターのG2メイヒルSに出走。ここでも2着に惜敗すると、今度はG1フィリーズマイルにぶつけ、なんとG1で初勝利を挙げることになったのだ。ジャパンCを含めて世界4カ国で5つのG1を制した父に、母系はオーソーシャープのファミリーだから、いかにもクラシック向きの血統を持つヒバーイェブ。1000ギニーももちろんだが、オークスへの大きな期待をかけたい馬と言えよう。  近年では、スペシーサ、フィンスケールビオといった馬たちが、このレースを勝って2歳シーズンを締めくくり、翌年の1000ギニー制覇につなげているのが、チャンピオンズデーにニューマーケットで行われる7fのG2ロックフェルSだ。今年は10月17日に行われた、この縁起の良いレースを制したのが、ミュージックショー(牝2歳、父ノヴェール)である。新馬、平場と連勝後、重賞初挑戦となったエアのG3ファースオブクライドSでは敗れたものの、距離を延ばして出走したロックフェルSで重賞初制覇を果たした。父ノヴェールは、昨年の仏ダービー馬ルアーブルを送り出しており、距離には融通性のある血統背景ではあるが、同じレースを勝った先輩たち同様、ミュージックショーもまずは1000ギニーを目指すことになろう。  アメリカでデビューし、英国のロイヤルアスコットに遠征して重賞制覇を果たし、来季の英国クラシックの有力候補になるという、異色の履歴を辿ったのが、ジェラスアゲイン(牝2歳、父トリッピ)だ。4月3日にキーンランドで行われた距離4.5fのメイドンでデビュー勝ちと、極めて早い始動を見せた同馬。続くチャーチルダウンズのG3ケンタッキー・ジュヴェナイルSで2着となった後、複数の同厩馬たちと一緒に英国に遠征して5fのG2クイーンメアリーSに出走。芝のレースは初めてだったにもかかわらず、桁違いのスピードを発揮して5馬身差の圧勝。その後ゴドルフィン入りして、来年の英国クラシックを目指すことになったものだ。全姉に、05年のキーンランド・エイプリルで購買されて日本へ渡り、2勝した他、G3きさらぎ賞にも駒を進めたアスタートリッピがいるという血統。抜きん出たスピード能力でどこまで戦えるか、けだし見ものである。  2歳時はメイドンを勝っただけだが、高い素質を示したことでブックメーカーの前売りでも上位にランクされ、来季を大いに嘱望されている馬もいる。  例えば、10月31日にニューマーケットのメイドンでデビュー勝ちしたフィールドデイ(牝2歳、父ケープクロス)。コンデュイットらと同じバリーマコールスタッドの自家生産馬で、欧米両大陸で4つのG1を制したイズリントンらのいる牝系の出身。シーザスターズという怪物を出したケープクロスの仔が、ニューマーケットの新馬を素晴らしい競馬で制したとあっては、注目を浴びないわけがなく、キャリア1戦ながら1000ギニーで21倍から26倍、オークスで17倍から26倍のオッズが付けられている。  この他、9月21日にケンプトンパークのオールウェザーのメイドンでデビュー勝ちを飾ったムワカバ(牝2歳、父イルーシヴクオリティ)、10月29日にリングフィールドのオールウェザーでデビュー勝ちを飾ったパドミニ(牝2歳、父タイガーヒル)なども、たった1戦だけで2歳戦線から撤退しながら、隠れたクラシック候補と目されている馬たちだ。  こうした馬たちの血統を吟味し、ブックメーカーの前売りで早めに単勝馬券を仕込むというのが、英国における競馬ファンの冬場の楽しみなのである。日本でも、「アンティポスト・ベット」と呼ばれる長期前売りを楽しめる日が、早く来ぬかと待ちわびる筆者である。 (合田直弘)


来年のクラシックを目指す現2歳世代、戦線状況が明らかに

 10月24日(土曜日)、英国における今シーズン最後のG1として、2歳馬による8f戦「レーシングポストT(ドンカスター競馬場)」が行われた。シーズン閉幕までには、まだフランスで2つの2歳G1が開催予定だが、来年のクラシックを目指す現2歳世代の戦線状況がほぼ明確になったので、御紹介したいと思う。

今回は、牡馬編。  現在、英2000ギニーと英ダービーのいずれにおいても英国ブックメーカー各社が本命に推しているのが、24日に行われたG1レーシングポストTの勝ち馬セントニコラスアビー(牡2歳、父モンジュー)だ。08年のタタソールズ・オクトーバーにて20万ギニーで購買され、エイダン・オブライエン厩舎に入ったアイルランド産馬で、ここまでの戦績はG1レーシングポストTを含めて3戦3勝。この世代では、頭2つ分ぐらい抜けた存在と見られている。  そのレーシングポストTで2着に入ったのが、イルーシヴピンパーネル(牡2歳、父イルーシヴクオリティ)。7月にニューマーケットのメイドンでデビュー勝ちし、続いて8月にヨークで行われた7fのG3エイコムSを連勝して重賞初制覇を果たした馬である。レーシングポストTで初めての敗戦は喫したものの、管理するベテラン調教師のジョン・ダンロップは「来年になれば更に良くなる」とコメントしており、今後の成長が期待されている。ダーレー・アメリカにて供用中の父は爆発的スピードを持っていた馬だが、本馬はレースぶりから判断して距離延長大歓迎のタイプと見られており、目下ダービーの前売りで2番人気に支持されている。  レーシングポストTの3着馬が、ゴドルフィン所属のアルジール(牡2歳、父メダグリアドロー)だ。兄に北米のG1フォアゴーS勝ち馬ミダスアイズがいるという良血馬で、今年3月のファシグティプトン・コールダーセールに上場されたところを、ジョン・ファーガソン氏に見いだされて160万ドルで購買された馬である。8月にニューマーケットのメイドンでデビュー勝ちし、続いて9月にドンカスターで行われた一般戦も連勝。一気に相手が強くなったレーシングポストTでは、内枠だったこともあり馬群に包まれる苦しい展開となったが、それでも3着に頑張ったあたり、相当の素質を感じさせてくれる馬である。ダービーの前売りで3番人気となっているこの馬が、ダーレー・アメリカ供用の父にとって、欧州に出現した最初の大物となりそうだ。  ブックメーカーの「bet365」社が、ダービーの前売りで20倍のオッズを掲げてアルジールと横並び3番人気に推しているのが、ゴドルフィンのキングズフォート(牡2歳、父ウォーチャント)だ。G1ガルフストリームパークH優勝馬プリンスアーチの弟という血統ながら、ゴフスのオクトーバーセールで3万6000ユーロ(約500万円)という、アルジールの30分の1という驚くような廉価だったのは、父も含めたアメリカ血脈が愛国のバイヤーに敬遠されたのだろうか。6月にカラのメイドンでデビュー勝ちした後、9月にカラで行われた7fのG1ナショナルSを制してエリートコースに乗ったキングズフォートは、2000ギニーのオッズでも各社11倍から17倍の3~7番人気となっている。  その2000ギニーのオッズで、多くの社がセントニコラスアビーに次ぐ評価をしているのが、いずれもハムダン殿下が所有するアルカノ(牡2歳、父オアシスドリーム)とアウザーン(牡2歳、父アルハース)の2頭だ。  ハムダン殿下の自家生産馬アウザーンは、10月2日にニューマーケットで行われたG1ミドルパークSを含めて、6f戦ばかり4戦して負け知らずの4勝。一方、08年のタタソールズ・オクトーバーセールで9万ギニー(約1700万円)で仕入れたアルカノも、8月23日にフランスのドーヴィルで行われたG1モルニー賞を含めて、これも6f戦ばかり3戦して負け知らずの3勝。ともに、距離さえもてば、2000ギニーの有力な候補となる馬たちである。  2歳時ここまで無敗で来ている大物として、これも高い評価を受けているのが、ツァイトオーパー(牡2歳、父シングスピール)だ。父が、モハメド殿下の臙脂の勝負服を背にジャパンCなど世界4カ国で5つのG1を制したシングスピールで、母がゴドルフィンの服色を背に英国の1000ギニーとオークスを連覇したカジア。全兄に、今年のG1ドバイシーマクラシックを制したゴドルフィンのイースタンアンセムがいるという、生粋のダーレー血脈を持つ馬である。9月16日にサンダウンで行われた8fのメイドン、10月3日にエプソムで行われた8f114yの一般戦、そして10月18日にロンシャンで行われたG3コンデ賞(1800m)と、3競馬場を転戦しながら重賞を含む3連勝。エプソムのコース経験があるのに加え、血統的にも12fはドンピシャリで、掛け値なしのダービー候補と言えよう。  2歳世代のシングスピール産駒には、次回の牝馬編で詳しく触れる予定の、G1フィリーズマイル勝ち馬ヒバーイェブ(牝2歳)や、10月18日にドイツのケルンで行われたG3ヴィンターファヴォリッテン賞(1600m)を制したグラッドタイガー(牡2歳)という牡馬もいて、来年春の欧州3歳クラシックにはシングスピール旋風が起きる可能性も指摘されている。  種牡馬で言えば、2000ギニーで17倍から26倍のオッズを付けられて10番人気前後となっているイクステンション(牡2歳)は、現在ダーレー・ジャパンで供用されているザールが欧州に残してきた産駒である。5月29日にグッドウッドのメイドンでデビュー勝ちと、仕上がりの早いところを見せたイクステンション。続くロイヤルアスコットのG2コヴェントリーSで2着となった後、7月29日にグッドウッドで行われた7fのG2ヴィンテージSで重賞初制覇。更に、10月17日にニューマーケットで行われた、英国における2歳王者決定戦G1デューハーストS(7f)でも、勝ち馬から首+鼻差の3着に健闘し、この世代でトップクラスの力量を持つ馬であることを実証している。固い馬場も渋った馬場もこなしており、信頼性の高い2000ギニー候補と言えそうだ。  また、9月初旬のこのコラムで触れた、好調シャマーダル産駒のアークティック(牡2歳、G3ラウンドタワーS勝ち馬)やシェイクスピアリアン(牡2歳、G3ソラリオS勝ち馬)あたりにも、2000ギニーで21倍から34倍とオッズが付いており、目が離せない存在となっている。  さて、次回のこのコラムでは、欧州における現2歳世代の情勢分析・牝馬編をお届けする予定だ。「アンティポスト」と呼ばれる3歳クラシックの前売り戦線は、欧州の競馬ファンにとって、芝の平地がシーズンオフに入る冬場の大きな楽しみとなっている。皆様も、ブックメーカー各社のオッズを、有力馬の血統やレースぶりとともに吟味しつつ、来年の春に思いを馳せる楽しみを味わってみてはいかがだろうか。 (合田直弘)


ブリーダーズC、ゴドルフィン有力馬に注目

 11月6日と7日の両日にわたってサンタアニタ競馬場で開催される第26回ブリーダーズCへ向けた前哨戦がほぼ終了したが、今季後半に入って絶好調モードに突入したゴドルフィンから複数の有力馬が出走予定で、全14競走中のうち何競走をブルーの勝負服が持っていくのか、大きな関心を集めている。

 まず初日の6日(金曜日)、開幕戦となるオールウェザー14fの「BCマラソン」に送り込むのが、マスターリー(牡3歳、父スラマニ)だ。ご存じの如く、9月12日にドンカスターで行われた3歳3冠最終戦のG1英セントレジャーを制した、ダーレー生産馬である。春後半のG1パリ大賞で好勝負したカヴァルリーマンが、秋の凱旋門賞で3着に健闘したのを見ても、本馬の実力は折り紙付き。同じ欧州勢で昨年のG1愛セントレジャーを制しているセプティマス、このレース連覇を目指すムハナクらが相手となりそうだが、順当なら「ここでまず1勝」を計算出来るはずだ。  サラルイーズ(牝3歳、父マリブムーン)とセヴェンスストリート(牝4歳、父ストリートクライ)という有力2頭での挑戦になるのが、牝馬によるオールウェザー7fのG1「BCフィリー&メア・スプリント」だ。8月29日にサラトガで行われたG3ヴィクトリーライドSを制して今季初重賞制覇を果たした後、9月26日にベルモントパークで行われたG2ギャラントブルームHでG1・5勝馬インディアンブレッシングの2着となったサラルイーズは、上昇気流に乗っての大一番参戦となる。一方のセヴェンスストリートも、8月2日にサラトガで行われたG1ゴーフォーワンドSを制して2度目のG1制覇を果たした強豪だ。昨年のこのレースの勝ち馬ヴェンチュラや、今季この路線のG1・2勝のインフォームドデシジョンなど、ここは相手も揃っているが、どこまでの戦いが出来るか。  初日のメインレースとして行われる牝馬によるオールウェザー9fのG1「レディース・クラシック」も、ゴドルフィンは2頭出しになる模様だ。1頭は、10月3日にベルモントパークで行われたG1ベルデイムSを制して、自身5度目のG1制覇を果たしたミュージックノート(牝4歳、父エーピーインディ)。昨年のこのレースで3着となって、オールウェザーへの適性も示しており、当然のことながら昨年以上の成績を目指している。もう1頭が、昨年のこのレース2着馬ココアビーチ(牝5歳、父ドネレイルコート)。今季は6月のベルモントパークの特別が初戦と、ゆっくり始動。10月10日にサンタアニタで行われたG1レディーズシークレットSで3着となって、本番前の試走を終えている。この路線には、そのレディーズシークレットSを制してデビューからの連勝を13に伸ばしたゼニヤッタという怪物がいるが、ゼニヤッタにはBCクラシック参戦の噂も流れており、ゼニヤッタ不在となればゴドルフィン勢の1・2フィニッシュも充分あるうる状況だ。  続いて2日目の7日(土曜日)。デイリーレーシングフォームの10月14日付けオッズで、上位人気5頭のうち4頭がゴドルフィンという、びっくりするぐらいの寡占状態になっているのが、今年からG1の格付けを得たオールウェザー8fのG1「BCダートマイル」だ。中でも1番人気に推されているのが、今年春のG2UAEダービー勝ち馬で、9月19日にルイジアナダウンズで行われたG2スーパーダービーを勝って見事復活を果たしたリーガルランサム(牡3歳、父ディストーテッドヒューモア)である。この他、9月18日にベルモントパークで行われた一般戦を制し、これも見事なカムバックを果たした昨年の全米2歳王者ミッドシップマン(牡3歳、父アンブライドルズソング)、10月11日にベルモントパークで行われたG2ジェロームHを制して今季の成績を3戦3勝としたジローラモ(牡3歳、父エーピーインディ)、9月5日にサラトガで行われたG1フォアゴーSを制したパイロ(牡4歳、プルピット)と揃ったここは、まず間違いなくブルーの勝負服が先頭でゴールを切ることになろう。  2日目の第5レースに組まれたG1「マイル」も、ゴドルフィンは2頭出しの予定。1頭は、モハメド殿下お気に入りの1頭と言われる、グラディアトーラス(牡4歳、父シリック)。3月のG1ドバイデューティフリーを圧勝し、この時点で世界最高値のレーティングを得ながら、欧州に戻った後の3戦でいずれも大敗。ドバイでのパフォーマンスをフロック視する声も上がっていたが、10月11日にイタリアのサンシロで行われたG1ヴィトリオディカプア賞を4馬身半差で快勝し、その実力を再証明した馬である。もう1頭は、英2000ギニー2着、セントジェームスパレスS2着など、今季の欧州3歳マイル路線で安定した成績を残したデリゲイター(牡3歳、父ダンシリ)だ。 昨年に続く連覇を狙うゴールディコーヴァが、壮行レースとなったG1ラフォレ賞で思わぬ敗戦を喫しただけに、ゴドルフィン勢にもおおいにチャンスのある1戦である。  2日目の第6レースに組まれたオールウェザー6fのG1「BCスプリント」に出走するのが、10月11日に本番と同じコース・同じ距離で行われたG1アンシェントタイトルSを快勝したガイエゴー(牡4歳、父ギルディッドタイム)だ。今季ここまで4戦3勝、2着1回と極めて安定した成績を残している実力馬が、まさに盤石の態勢を整えて頂上決戦を迎える。9月6日にデルマーで行われたパットオブライエンSを含めて、今季この路線のG1・3勝というゼンセーショナルが相手となるが、戦ってきた相手はガイエゴーの方が強く、ここも充分に勝機のある戦いとなるはずだ。  英国のブックメーカーが、「ゴドルフィンが○勝する」という賭けを発売するほど、手駒の揃ったゴドルフィン。その攻勢ぶりにご注目いただきたい。 (合田直弘)