アメリカンペイトリオット 合田直弘

 様々な魅力に満ち溢れているアメリカンペイトリオットだが、まず真っ先にご紹介したいのが、現役時代に見せたレース振りである。

 競馬で勝つために重要な要素のひとつが「スピード」であることは言うまでもないが、ひと括りに「スピード」と言ってしまうと、その概念は非常に幅広く、解釈の齟齬が見解の相違を生むことになりかねない。

 例えば、テンからガンガン飛ばして行くダッシュ力も「スピード」であり、競馬に勝つために必要な形質ではあるが、しかし、日本の競馬でことさらに有用なのは、こういうスピードではない。日本の競馬で勝つために求められるのは、溜めることが出来て、なおかつ、使いたいという局面で間髪を入れずに使うことが出来る、タクティカルなスピードである。

 「瞬発力」あるいは「切れ味」という言葉に代弁されるスピードこそが、日本で勝ち抜く上で極めて重要な形質なのだ。今や、世界のトップと互角に渡り合えるようになった日本産馬だが、国際舞台においても、日本馬の特性は「瞬発力」というのが既に通り相場となっており、日本馬は「切れ味」を最大の武器として、海外の強豪たちと相まみえているのである。

 アメリカンペイトリオットとは、類い稀なスピードをタクティカルに使える馬であった。同馬が制した、2017414日にケンタッキー州のキーンランド競馬場で行われた、G1メイカーズ46マイル(芝8f)の映像を、ぜひご覧いただきたい。好スタートを切りながら、前半は中団後ろ目に待機。アメリカの競馬らしく34コーナー中間からペースが上がった中、ジワッと番手をあげながらも、直線残り300m付近でのアメリカンペイトリオットは、先頭から6馬身ほど後方の6番手というポジションだった。ギアをトップに入れたのは残り1fを切ってからで、そこから疾風怒涛の末脚を繰り出し、相手馬たちを一刀両断にして差し切り勝ちを演じたのである。極上の切れ味を持ち、なおかつそれを、ここぞという局面で使える競走馬がアメリカンペイトリオットであった。

 創設時の1989年から1996年まではフォートハロッドS1997年から2011年まではメイカーズマークマイルの名称で施行されたメイカーズ46マイルは、歴史こそ浅いものの、北米芝路線において極めて重要な位置にある一戦となっている。

 それは、過去の勝ち馬の名を見れば一目瞭然で、そもそもからして1989年の第1回競走の勝ち馬が、3つのG1を制した他、ウッドバインのキングエドワードGCで、1454という芝9fのワールドレコードタイ記録をマークした実績のあった、名馬ヤンキーアフェアであった。

 1991年の勝ち馬は、その年の秋にG1BCマイルを制することになるオープニングヴァーズであったし、1996年には前年のケンタッキーダービー2着馬テハノランが優勝を飾っている。

 1999年には、欧州でG1ロッキンジS連覇を達成した後に北米に移籍してきたソヴィエトラインが優勝。2005年の勝ち馬アーティーシラー、2006年の勝ち馬ミエスクズアプルーヴァル、2007年の勝ち馬キップデヴィルは、いずれも、その年の秋にG1BCマイルを制している。

 キップデヴィルは2008年のこのレースも制し、レース史上初の連覇を達成。そして、2013年・2014年とこのレースを制し、2頭目の連覇を達成したワイズダンは、2012年と2013年に2年連続で全米年度代表馬に選出された馬であった。

 こうした錚々たる顔ぶれの一角に、アメリカンペイトリオットの名が記されているのである。

 アメリカンペイトリオットが勝った2017年のメイカーズ46マイルも、非常に水準の高い顔触れが集まっていた。前年のこのレースの2着馬で、直前のG3カナディアンターフS8度目の重賞制覇を果して参戦だったハートトゥハート。前年のG1フランクキルローマイル勝ち馬で、連覇を狙った前走のG1フランクキルローマイルは2着だったホワットアビュー。サンタアニタのG2アルケイディアH2年連続制覇した後、前走G1フランクキルローマイルは3着だったボロなど、全米各地から集ったトップマイラーたちを相手に、前述したような大向こうを唸らせる勝ち方を、アメリカンペイトリオットは見せたのである。

 そのメイカーズ46マイルと並ぶ、アメリカンペイトリオットの競走生活におけるもう1つのハイライトが、2016716日にデラウェアダウンズで行われた、G3ケントS (芝9f) であった。このレースにおけるアメリカンペイトリオットは、34番手追走から、直線残り150m付近で先頭に立つという競馬を見せて優勝。勝ち時計の14719は、デラウェアパーク芝9ハロンのトラックレコードであった。

 タクティカルなスピードを持っていたアメリカンペイトリオットの血統背景もまた、この新種牡馬が持つ実に魅力的な要素の1つである。

 勝ち馬ライフウェルリヴドの2番仔となるアメリカンペイトリオットだが、母の4歳年上の全兄にあたるのが、2008年のG1グッドウッドS (AW9f) や2009年のG1ドバイワールドC (D2000m) を制したウェルアームドだ。このうち、G1ドバイワールドC2着に退けたのは、その翌年にG1ドバイワールドCを勝つことになるグロリアデカンペオンであったが、同馬に付けた着差はレース史上最大となる14馬身という大差であった。ウェルアームドは更に、2008年にデルマーのG2サンンディエゴHを制しているが、その時の勝ち時計の14157は、デルマー8.5fのトラックレコードであった。アメリカンペイトリオットが持っていた爆発的スピードの根源のひとつは、叔父にあたるウェルアームドにあることは間違いなさそうである。

 アメリカンペイトリオットの母ライフウェルリヴドの、3歳年上の半兄には、G1トラヴァーズS3着となったヘルシンキもいるから、極めて活気ある牝系であることもまた、間違いのない事実だ。

 更に近親には、2002年・2003年と、G1天皇賞秋、G1有馬記念をいずれも連覇し、年度代表馬にも2年連続で選ばれたシンボリクリスエスもいるから、日本適性も既に実証済みのファミリーを、アメリカンペイトリオットは背景に持っているのである。

 そして、アメリカンペイトリオットの血統的魅力は、そのサイヤーラインにも見出すことが出来る。

 父ウォーフロントは北米産馬で、祖国で現役生活を送りダートを主戦場とした馬であったが、ケンタッキーのクレイボーンファームにて種牡馬入りした後のウォーフロントは、まさしくワールドワイドな存在となっている。

 お膝元の北米でも初年度産駒から、G1マリブS (D7f) やG1パットオブライエンS (AW7f) を制したザファクターという、父を彷彿とさせる一流馬が登場した。だがそれと同時に、12年のG1メイカーズマークマイル (芝8f) を制したデータリンクや、G1デルマーオークス (芝9f) を制したサマーソワレといった芝での活躍馬も、ウォーフロントは初年度産駒から送り出したのだ。

 そして2年目の産駒から登場したのが、愛国を拠点に走り、G1クイーンアンS (芝8f) やG1インターナショナルS (芝10f56y) を制したデクラレーションオヴウォーであった。

 その後もウォーフロントは、本馬以外にも北米で、G1アルシバイデスS (D8.5f) 勝ち馬ピースアンドウォー、15年のG1メイカーズマークマイル (芝8f) 勝ち馬ジャックミルトン、G1ロデオドライヴS (芝10f) 2年連続制覇のアヴェンジ、17年のG1フラワーボウルS (芝10f) 勝ち馬ウォーフラッグらを、欧州では、G1デューハーストS (芝7f) 勝ち馬ウォーコマンド、G1デューハーストSなど3つのG1を制し2歳牡馬チャンピオンの座に就いたエアフォースブルー、G1チーヴァリーパークS (芝6f) 勝ち馬ブレイヴアナ、17年にG1デューハーストSなど2つのG1を制しカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選出されたユーエスネイヴィーフラッグ、そして17年にG1サンチャリオットS (芝8f) など3つのG1を制したローリーポーリーらを輩出。 

 更に香港でも、G1チャンピオンズ&チェイターC (芝2400m) 勝ち馬ヘレンスーパースターが登場。

 地域を問わず、路面を問わず、距離を問わず、A級馬を送り出し続けているのがウォーフロントなのである。

 これだけ走れば、マーケットにおけるウォーフロント産駒の価格が高騰するのも当然で、2017年のキーンランド・セプテンバーセールでも、4頭ものウォーフロント産駒が、100万ドルを超える価格で購買されている。

 そして、2007年に種牡馬入りした時には12500ドルだったウォーフロントの種付け料は今年、その20倍の25万ドル (約2875万円) まで急上昇をしている。

 その、引く手あまたのウォーフロント産駒の中でも、最も日本適性が高いと思われるアメリカンペイトリオットが、日本のダーレーで供用されるのだ。なおかつ、サンデーサイレンス系だけではなく、日本で現在主流となっている血脈のほとんどに交配可能な血統構成を持つのがアメリカンペイトリオットだ。種牡馬として成功する、あらゆる要素を備えた馬と言えそうである。