ナシュワン以来20年ぶりに英2000ギニーと英ダービーの2冠を達成。その後、古馬との初対決となったエクリプスS(G1、10f7y)で、その後キングジョージを制するこの路線の古馬ナンバーワン・コンデュイットを撃破。その後の英インターナショナルS(G1、10f88y)、愛チャンピオンS(G1、10f)は、複数の手駒を繰り出してきたエイダン・オブライエン軍団による包囲網との戦いとなったが、いずれも力の違いを見せつけて完勝。ことに9月5日にレパーズタウンで行われた愛チャンピオンSでは、英ダービーの2着の後にシーザスターズが不在だった愛ダービーを5馬身差で圧勝し、凱旋門賞では最大の敵になると目されていたフェイムアンドグローリー(牡3歳、父モンジュー)を完璧に封じ込めたことで、「もはやシーザスターズで致し方なし」との印象を多くの人に残すことになった。
9月11日に発表になったワールドサラブレッドランキングでも、2番手以下に5ポンドという大差をつける135ポンドを獲得。これは、1999年にモンジューとデイラミに与えられて以来となる、今世紀に入ってからの最高レートで、数字的にもシーザスターズの独走態勢が証明されている。
ただし、毎度のことではあるが、陣営は馬場が悪化した場合には出走を回避すると言明。ご承知のごとく秋のパリは天候が不順で、凱旋門賞の馬場状態も過去10年のうち3年は「不良」で、それ以外に「重」の年も1年あった。父ケープクロスの産駒には、重馬場のG1マナワツサイアーズプロデュースSを制したキンダクロスのような馬もいるし、稍重で行われた愛チャンピオンSにおけるレースぶりを見れば、多少の雨ならこなしてしまいそうだが、さすがに勝ち時計が2分30秒を上回るような馬場になると、矛先を2週間後にニューマーケットで行われる10fのG1英チャンピオンSに向けることになりそう。すなわち、本命馬不在の凱旋門賞となる可能性も、少なからぬ確率であることを念頭に置いておくべきであろう。
そうなると、浮上するのはどの馬か。ここで再び過去のデータをひもとくと、性齢別に見て最も良績を残しているのが、過去10年で6勝を挙げている「牡の3歳馬」だ。そして、凱旋門賞を制した3歳牡馬6頭は、全馬が前哨戦としてG2ニエユ賞を走っており、このうち5頭は勝って本番に臨んでいることから、今年のニエユ賞(ロンシャン、2400m)勝ち馬カヴァルリーマン(牡3歳、父ホーリング)は当然のごとくマークすべき存在と言えよう。
ダーレーの生産馬で、ゴドルフィンに所属する馬だが、今季から再びモハメド殿下関連の現役馬を手掛けることになったアンドレ・ファーブル調教師の管理下にある、フランス調教馬である。今年の春は、初戦のLRフランソワマテ賞4着、続くG2グレフュール賞が2着と惜敗が続き、クラシックには乗れなかったが、6月1日にサンクルーで行われたLRマッチェム賞を制して今季初勝利。陣営は次走、いきなりロンシャンのG1パリ大賞(2400m)にぶつけるという強気のローテーションに打って出て、馬もこれに応えて快勝。重賞初制覇をG1で飾るという離れ業を演じた。その後、パリ大賞の3着馬マスターリーが、9月12日に行われた英国3冠の最終戦G1英セントレジャーに優勝。パリ大賞のレベルが高かったことを証明したおかげで、G2ニエユ賞では単勝1.6倍の圧倒的1番人気に支持されたカヴァルリーマン。期待に応えてきっちりと差し切り勝ちを演じ、本番へ向けてほぼ完璧な試走を終えている。
管理するアンドレ・ファーブルは、凱旋門賞7勝というこのレースにおける最多勝調教師で、手綱をとることが予想されるのも、今年勝てば騎手の最多勝タイ(4勝目)となるフランキー・デットーリだ。凱旋門賞の勝ち方を最も知るチームが送り出す馬という点でも、魅力ある1頭である。
9月13日のロンシャンでは、ニエユ賞を含めて3つの凱旋門賞プレップが行われたが、この日のパフォーマンスによって評価が最も高まることになったのが、ヴェルメイユ賞(G1、2400m)に出走したダーレミ(牝4歳、父シングスピール)であった。
3歳時の昨年は、ザルカヴァの2着となったこのレースをはじめ、善戦しながらも惜敗の多かった馬だが、4歳を迎えて本格化。6月27日にカラで行われたG1プリティポリーSで、昨年の英オークス馬ルックヒア(牝4歳、父エルナンド)らを退けてG1初制覇。続くヨークのG1ヨークシャーオークスでも、英国と愛国のオークスを連覇して臨んできたサリスカ(牝3歳、父ピヴォタル)を退けてG1連覇を達成。勢いに乗じて出走したのが、ヴェルメイユ賞だった。
今年のヴェルメイユ賞で、単勝2倍の1番人気に推され、大きな注目を集めていたのが、スタセリータ(牝3歳、父モンズン)である。ここまでの戦績、5戦5勝。春の仏オークスを4馬身差で圧勝し、生涯無敗で引退した昨年の凱旋門賞馬ザルカヴァの再来とまで言われていた馬であった。
そのスタセリータを、馬群中団から強烈な末脚を発揮して差し切り、1着で入線したのが、ダーレミだったのだ。スタセリータの連勝にストップをかけ、自身はG1・3連勝を果たしたダーレミの評価が急上昇したのも、当然のことであった......のだが!?
出走馬がスタンド前に引きあげて来たあたりで審議のコールがあり、確定まで長い時間を要した結果、ゴール前300mの地点で5着入線のソベラニアの進路を妨害したとして、ダーレミは降着。2着入線馬スタセリータの繰り上がり優勝との裁定が下ったのである。
その後、降着にするほど酷い妨害ではなかったのではないかと、英仏マスコミが入り乱れた論争となり、ダーレミ陣営も正式に異議申し立てを行うことになったが、レース内容でダーレミがスタセリータを上回っていたことは明らか。場合によっては凱旋門賞で本命となる局面も考えられたスタセリータは、各社単勝9倍前後の4番人気に評価を落とすことになった。
一方のダーレミだが、大手ブックメーカーのラドブロークスは、9月21日時点でこの馬の名を凱旋門賞の前売りリストに掲載していない。と言うのも、不可解な降着騒動の後、陣営の一部から「もう2度とフランスには馬を連れて来ない」とのコメントが聞かれたからだ。その一方で、「凱旋門賞でもう1度きっちりと実力を示すべき」との声も周辺から聞こえており、ダーレミの出否は現時点では流動的だ。だが、出てくれば、上位を争う存在となることは間違いなさそうである。
ダーレミは、父がジャパンC勝ち馬シングスピールで、自身も固い馬場を苦にしないことから、早くから秋のエリザベス女王杯参戦を視野に入れていた馬である。凱旋門賞を勝って来日し、エリザベス女王杯からジャパンCというローテーションを踏んでくれれば、大きな話題を呼ぶことになろう。
(合田直弘)